小説の書き方で最初に目指すのは、長編全体を決め切ることではなく、主人公に一つの変化が起きる一話を最後まで書くことです。まず「誰が、何を望み、この一話で何が変わるか」を決め、一話設計カードを埋めてから本文へ進みましょう。書き終えた後に次回の入口を残せば、二話目以降も再開しやすくなります。
小説を書き始める前に決めるのは3つだけ
本文に入る前は、主人公、望み、一話での変化を決めれば十分です。人物表や世界観を作り込みたくなっても、最初の一話に必要な情報から始めます。
プロットは、執筆者が物語の方向性をまとめるための構想メモとして使えます。幻冬舎ルネッサンスのプロット解説でも、テーマ、キャラクター、舞台・世界観、話の筋が検討項目として挙げられています。ただし、最初からすべてを埋める必要はありません。ここでは、本文を始めるための最小セットとして次の3つを置きます。
| 決めること | 書く内容 | 例 |
|---|---|---|
| 誰が | この一話の中心になる人物 | 古書店で働く高校生・紬 |
| 何を望むか | 今すぐ達成したい小さな目的 | 閉店前に、祖父の残した本を見つけたい |
| 何が変わるか | 一話の終わりまでに起きる違い | 本が見つかり、表紙から知らない声が聞こえる |
「設定が足りないから書けない」と感じたら、本文で必要になる設定だけを仮置きにします。たとえば魔法の仕組みを全部決める代わりに、「古書には一度だけ声を記録できる」とだけ書いて先へ進めます。後から必要になった分を資料に足す判断もできます。
一話設計カードで、メモを読める場面にする
一話設計カードは、目的・開始時の状態・起きる変化・終わりの引きを一枚にまとめるためのテンプレートです。アイデアを説明文のまま残さず、場面の順序へ変えます。
以下は、最初の一話を作るための編集上の提案です。正解を当てるカードではなく、本文へ戻る場所を作るために使います。
| 項目 | 記入すること | 架空の作例:現代ファンタジー |
|---|---|---|
| 目的 | 主人公がこの場面で達成したいこと | 紬は祖父の書斎から「月蝕の本」を探す |
| 開始時の状態 | 冒頭にある状況と、主人公の迷い | 閉店10分前。紬は本の題名しか知らず、客も残っている |
| 起きる変化 | 目的へ近づく、または遠ざかる出来事 | 目当ての本は見つかるが、表紙に触れると祖父の声が聞こえる |
| 終わりの引き | 次の場面で確かめたい疑問・選択 | 声は「今夜、駅へ行くな」と告げる |
このカードが埋まったら、本文は次の順で短くつなげます。
- 冒頭で、主人公が何をしようとしているかを見せる。
- その目的を簡単には達成できない事情を置く。
- 行動の結果として、予定を変える出来事を起こす。
- 最後に、次の場面で確かめることを一つ残す。
書けなくなったときは、表現を探し続ける前にカードへ戻ります。「紬は次に何をするのか」「見つけた本で何が変わったのか」のどちらかを書き直してください。場面の変化が見えると、次の一文を選びやすくなります。
本文は冒頭・出来事・終わりをつなげて書く
最初の一話では、印象的な文章よりも、主人公の行動が変化へつながる流れを優先します。短くても、始まる前と終わった後が違えば、一つの場面として閉じられます。
たとえば上の作例なら、次のように小さく書き始められます。
閉店札を裏返そうとしたとき、紬は書斎のいちばん奥で月色の背表紙を見つけた。祖父が探すなと言った本だった。
この後は、「本を取る」「声を聞く」「駅へ行くなという言葉に戸惑う」と、設計カードの順番に一つずつ書きます。説明したい設定が増えた場合も、今の行動に関係する一文だけを本文に置き、残りは資料へ回します。
初稿と推敲を分ける
初稿では場面が前へ進むかを確認し、言い回しや描写の密度は推敲で整えます。一度に両方を完成させようとしないことが、最初の一話を閉じるための実用的な区切りになります。
初稿で確認する項目
- 主人公が何を望んでいるかが分かる
- 冒頭と終わりで、状況または主人公の認識が一つ変わっている
- 出来事の前後関係が追える
- 終わりに、次の場面で確かめたいことが残っている
- 読み返して「ここから先は書かない」と決められる
推敲に回す項目
- 同じ語尾や言い回しが続いていないか
- 情景や感情の描写を足すか、削るか
- 誰の発言・行動かが読み取りやすいか
- 固有名詞、時刻、設定の整合が取れているか
- 一文が長すぎず、読点や改行が自分の意図に合っているか
初稿の途中で気になる表現を見つけたら、本文を止めずに「言い換え候補」「要確認」と短くメモして先へ進みます。推敲を始める基準は、完璧さではなく、設計カードに書いた変化まで到達していることです。
次回のために本文・プロット・資料・メモへ一つずつ残す
一話を書き終えたら、次回の自分が迷わないように4か所へ一件ずつ残します。本文を閉じるだけでなく、再開するときの入口を用意する手順です。
| 残す場所 | 残すもの | 作例 |
|---|---|---|
| 本文 | 次に書き出す直前の一文、または場面の位置 | 「紬は駅へ向かう前に、祖父の机を調べる」 |
| プロット | 次の一話で起こす変化 | 駅へ行くなという忠告が、別の事件につながる |
| 資料 | 確認が必要な設定 | 月蝕の本が声を残せる条件は未決定 |
| メモ | 本筋に入れるか未定の思いつき | 客だった人物も本の声を聞いていたかもしれない |
本文には今書くこと、プロットには次に起こすこと、資料には作品内で確認すること、メモにはまだ採用を決めないことを置きます。この分け方なら、思いつきを捨てずに本文の流れも守れます。
Handyを使う場合は、書く場所と参照する場所を分ける
Handyは、本文エディタ、プロット、資料、メモをあわせて扱える小説執筆向けのツールです。章・場面・伏線の構造化、エディタ横での資料参照、資料名の@メンションに加え、本文では「」で囲んだセリフのハイライトとルビの強調が案内されています。たとえば本文で一話を書き、プロットに次の変化を残し、資料を参照しながら設定を確かめ、メモに候補を置く、という使い分けができます。
会話やルビを見ながら推敲したい場合に、本文の見え方を確認する選択肢になります。
一方で、何を主人公に望ませるか、どの変化を一話の終わりに置くか、思いつきを採用するかは作者自身が決める部分です。Handyは作業を置き分ける道具として向いていますが、作品の正解を自動で決めるものではありません。プレーンテキストだけで十分な場合や、オフラインのみで書きたい場合には、別の環境の方が合うこともあります。
まとめ:一話設計カードを埋めて、最初の場面を書き始める
小説を書き始めるときは、主人公・望み・変化の3つを決め、一話設計カードに目的、開始時の状態、起きる変化、終わりの引きを書きます。その後は冒頭・出来事・終わりをつなげ、初稿では場面の変化だけを確かめてください。
書き終えたら、本文・プロット・資料・メモに次回の入口を一つずつ残しましょう。まずはカードを一枚埋め、主人公が何かをしようとする最初の一文を書いてみてください。執筆場所をまとめたい場合は、Handyを試すこともできます。