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語りの頻度

Handy編集部公開

語りの頻度

語りの頻度とは、物語世界で出来事が何度起き、本文が何度語るかという回数の関係です。英語では narrative frequency です。投稿頻度や単語・構文・モチーフの出現回数ではありません。

基本は、単起的(singulative)、反復的(repetitive)、括復的(iterative)の三つです。ただし論理上は、一度/一度、複数回/各一度、一度/複数回、複数回/一度の四関係があります。本記事では日本語資料に合わせて「括復的」と呼び、原語も併記します。

語りの頻度では何を一回と数えるか

数える対象は、物語世界側の「出来事の生起」と、本文側の「その出来事を語る箇所」です。Cambridge Core掲載論文でも、frequencyは出来事の発生回数と物語言説で語られる回数との関係として整理されています。

何を一件の出来事とするかには判断が入ります。「レンズを点検する」なら三夜の点検は三件ですが、「傷を発見する」なら見つけた夜の一件だけです。日時、場所、参加者、開始状態、原因、後戻りできない結果から、同じ事件か似た別事件かを決めます。

語彙が違っても、同じ日時の傷発見を日誌と証言で述べるなら、一件を二度語っています。反対に同じ文型でも、翌夜の点検なら別の生起です。先に出来事の単位を決めてから数えます。

4つの回数関係と3つの名称

違いは、反復が物語世界側と本文側のどちらにあるかです。参考資料2で確認できる日本語表記と原語を、四関係に展開すると次のようになります。

物語世界での生起回数本文で語る回数採用資料で確認した名称・原語短い標識例誤判定しやすい相手
11単起的・単起法/singulative「嵐の夜、ミナは傷を見つけた」描写が長いから別分類だと考える
nn単起的・単起法/singulative月・火・水の点検を各一回ずつ語る生起が反復するので反復的だと考える
1n反復的・反復法/repetitive同じ発見を現場・日誌・証言で語る複数視点そのものを定義にする
n1括復的・括復法/iterative「毎夜、ミナは点検した」「毎夜」や要約そのものを定義にする

ここで n は複数回を表す記号で、推奨回数や精密な値ではありません。n回起きたことをn回語る場合、各生起に一つの語りが対応するため、頻度上は一度/一度の単起的関係へ帰着します。「反復的」は一度の生起に対して語り側が複数回、「括復的」は一度の語りに対して生起側が複数回です。

同じ灯台勤務を4つの関係へ書き分ける

次の四つは、灯台守ミナ、北岬灯台、主レンズを揃えた架空例です。生起回数や期間を意図的に変えており、同一事実の言い換えではありません。優劣ではなく、個別の夜、複数の解釈、習慣の輪郭のどれを残すかが異なります。

A:一度の点検を一度語る

十月十八日の夜、灯台守ミナは北岬灯台の主レンズを点検した。嵐で塔が震れるたび、布の下で光が揺れた。縁に指を滑らせたとき、昨日の日誌にはない細い傷へ触れる。ミナは灯火を落とし、運転停止を記録した。傷の発見も停止の判断も、この場面で一度だけ語られる。

生起として数えた出来事:十八日の点検・傷発見一件/語り:一箇所/分類:単起的/次の推敲課題:発見前後の状態を一場面でつなぐ。

B:複数夜の点検を各夜一度ずつ語る

十六日、ミナは北岬灯台の主レンズを磨き、異常なしと日誌へ書いた。十七日、潮の塩が縁に残っていたが、拭えば光は戻った。十八日の嵐では、布を外した指が細い傷で止まる。彼女は灯火を落とし、初めて運転停止を記した。三夜の点検を、それぞれ一度ずつ語っている。

生起:十六・十七・十八日の点検三件/語り:三箇所/分類:n対nの単起的/次の推敲課題:各夜の差と最終夜の結果を分ける。

C:一度の異常発見を異なる位置から複数回語る

第一章で、ミナは十八日の嵐の夜に主レンズの傷を見つけ、灯火を止める。第三章の整備日誌は、同じ発見時刻と傷の下の油膜を記す。第六章で船員レオは、その発見直前に灯りが一度消えたと証言する。語句も情報源も違うが、三箇所が語るのは同じ一件の傷発見である。

生起:十八日の傷発見一件/語り:現場・日誌・証言の三箇所/分類:反復的/次の推敲課題:各再説の新情報と解釈差を確かめる。

D:複数夜の習慣を一度に語り、例外へ移る

十七日まで毎夜、ミナは北岬灯台の主レンズを点検し、異常なしと日誌へ書いた。だが、十八日の嵐の夜、布を外した彼女は縁の傷を見つけた。指先には油がつき、灯火を落とすほかなかった。前の一文は十七夜を一括し、後の二文は状態を変えた一夜を個別に語る。

生起:十七夜の点検群+十八日の例外/語り:習慣一箇所+例外一箇所/分類:前半は括復的、後半は単起的/次の推敲課題:「毎夜」の終端を明示する。

生起回数を変えた箇所
A一夜の一件
B三夜の三件へ変更
CAと同じ一件。語りだけ三回へ変更
D十七夜の習慣と一夜の例外へ変更

同じ事件を語り直す3回を台帳で比べる

複数視点、回想、冒頭の断片の再提示は、それだけでは反復的になりません。同じ一度の事件を複数回語る場合に成立します。次は編集部独自の「出来事同一性・再説台帳」です。

event_id物語世界での日時場所参加者開始状態不可逆な結果語られる位置情報源・焦点今回加わる情報前回から変わる解釈
LF-1018-SCRATCH10月18日22:10北岬灯台・灯室ミナ前夜まで無傷と記録傷を発見し運転停止を判断第1章・現場ミナの知覚傷の位置、嵐、停止判断自然破損に見える
LF-1018-SCRATCH同上同上ミナ、整備主任同上同上第3章・整備日誌日誌傷の下の油膜、点検時刻偶発事故ではない疑いが生じる
LF-1018-SCRATCH同上同上ミナ、船員レオ同上同上第6章・証言レオの焦点直前に灯りが一度消えた第三者関与へ傾く

日時、場所、開始状態、結果が一致するため、三行には同じ event_id を付けています。語彙や焦点が変わっても同じ事件を指せますが、翌日の点検は似た行動でも別の生起になり得ます。「今回加わる情報」と「変わる解釈」が両方空欄なら、削除、統合、意図的に同じことを反復する理由の再検討候補です。削除が常に正解という意味ではありません。

Handyの機能一覧を参照する場合は、事件の日時・関係人物・各再説で開示する情報を資料やプロットへ整理し、資料パネルや資料の@メンションで本文執筆中に参照できます。ただし、Handyが事件の同一性や頻度分類を自動判定したり、重複した再説を検出したりするわけではありません。プレーンテキストだけで足りる作者や自動分類を求める作者には、この用途で選ぶ必要はありません。

習慣から例外の一夜へ切り替える

「毎夜」があっても、段落全体が括復的とは限りません。諏訪裕「『まごころ』の物語論的研究(3)―頻度―」では、括復的な習慣系列に一回だけの単起的な例外が入り得ると分析されています。習慣を一度に語る区間と、具体的な一回を語る区間を文や節の境界で分けます。頻度と叙述速度も別々に確認します。

比較版対象期間生起の集合語る回数頻度分類作中時間本文量・速度形式例外となる一回切替標識切替後に変わること
習慣を一括10月1〜17日17夜の点検1括復的17日間短い要約になり得るなし「十七日まで毎夜」期間中の個別差は残さない
各夜を展開10月16〜18日3夜の点検3n対nの単起的3日間各夜を場面化すれば遅くなり得る18日の傷発見日付見出し各夜の差と因果を残す
習慣+例外10月1〜18日17夜の習慣+1夜の例外2区間前半括復的+後半単起的18日間前半要約+後半シーン候補18日の嵐と傷発見「だが、十八日の嵐の夜」無傷から運転停止へ変わる

括復的だから必ず要約になるのではありません。頻度は生起回数と語る回数、速度は作中時間と本文量の関係です。まず生起の集合と語る箇所を数え、その後に作中時間と本文量を見ると、二つを混同しません。D版では「十七日まで毎夜」で括復的な区間を閉じ、「だが、十八日の嵐の夜」から単起的な例外へ切り替えています。

順序・速度・焦点化・モチーフ反復との違い

語りの頻度が問うのは回数関係です。近い概念は、何と何を比較するかで分けます。

概念確認する問い
語りの頻度出来事が何度生起し、本文がそれを何度語るか
アナクロニー出来事の発生順と提示順がどうずれるか
叙述速度作中時間に対し、どれだけ本文を割くか
焦点化誰の知覚・知識・判断を通して情報を選ぶか
ファーブラとシュジェート出来事の連なりを作品上どう選び、並べ、語るか
レイトモティーフどの物・語句・像を、何と結びつけて反復するか

同じ事件を後の回想で再説すれば、順序と頻度の両方が関わります。別人物から再説すれば焦点化も変わり得ます。しかし、回想や複数視点そのものが反復法なのではなく、同じ一件を再度語ったかを別に確認します。同じ語句が三回出ても、三つの別事件を示すなら、それだけで一度/三度の反復的関係にはなりません。

失敗しやすい点と直し方

最初に、出来事の単位が途中で変わっていないか確認します。「点検」を数えていたのに、途中から「傷発見」を数えると、同じ本文でも生起数が変わります。表の冒頭に「今回は何を一件とするか」を書きます。

次に、本文中の語句の数ではなく、同じ出来事を語る箇所を数えます。日誌を引用した直後に登場人物が内容を要約していても、二つが独立した再説か、一つの提示の一部かは区切り方を明示して判断します。一段落に習慣と例外が混ざる場合も、段落全体へ一分類を貼らず、切替文の前後で分けます。

心理学で扱われる自伝的記憶の「語り直し」や投稿の更新頻度は、物語論上の語りの頻度とは別です。新情報を加えれば必ず作品が良くなる、括復的なら必ず読みやすくなる、といった効果や最適回数も決められません。

まとめ

語りの頻度は、物語世界での出来事の生起回数と、本文で語る回数の関係です。一度/一度とn度/n度は単起的、一度/n度は語り側が複数の反復的、n度/一度は生起側が複数の括復的と整理できます。

まず自作から「毎回」とまとめた習慣、または後で再び語られる事件を一つ選んでください。「何を一件とするか」「生起回数」「語る回数」を別列にし、混在する段落は切替文の前後へ分けます。そのうえで、再説に残す情報や習慣から例外へ移る標識を選びましょう。

参考資料